大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

山口地方裁判所 平成元年(行ウ)3号 判決

原告

松田恭輔

藤本博司

吉田貞好

村上克巳

大西明子

久米慶典

右原告ら訴訟代理人弁護士

内山新吾

清水茂美

三浦諶

被告

大井喜榮

右訴訟代理人弁護士

森重知之

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告は、岩国市に対し、八二七万九〇四〇円及びこれに対する平成元年六月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件訴えは、岩国市民である原告らが岩国市長であった被告に対し、被告が随意契約によって各種契約を締結したことは違法であり、右違法行為により岩国市に損害を被らせたとし、地方自治法二四二条の二第一項四号に基づき、岩国市に代位して損害賠償を請求した住民訴訟である。

一争いのない事実

1(一)  原告らは岩国市の住民である。

(二)  被告は、昭和六二年以降岩国市長に就任し、普通地方公共団体の長として岩国市の契約締結権を有する者である。

2  被告は、岩国コレクトサービスこと米田克己(以下「コレクトサービス」という。)との間で、委託者を岩国市、受託者をコレクトサービスとする次の約定の業務委託契約(以下「本件各契約」という。)をそれぞれ締結した。

(一) 市道清掃業務委託契約

(1) 契約日 昭和六三年五月一日

(2) 委託業務の内容

ア 業務の名称 市道錦見七八号線外一二路線清掃業務

イ 実施場所 岩国市が指定する市道

ウ 業務の内容 市道清掃

(3) 業務委託期間 昭和六三年五月一日から平成元年三月三一日まで

(4) 委託料 一五二万円

(二) 河川等清掃業務委託契約

(1) 契約日 昭和六三年五月一日

(2) 委託業務の内容

ア 業務の名称 河川等清掃業務

イ 実施場所 市内一円

ウ 業務の内容 河川等清掃

(3) 業務委託期間 昭和六三年五月一日から平成元年三月三一日まで

(4) 委託料 八四六万円

(三) 発泡スチロール溶融処理等業務委託契約

(1) 契約日 昭和六三年一二月一日

(2) 委託業務の内容

ア 業務の名称 発泡スチロール廃蛍光管処理業務

イ 実施場所 岩国市川西四丁目不燃物処理場内

ウ 業務の内容 発泡スチロール溶融処分及び廃蛍光管処理

(3) 業務委託期間 昭和六三年一二月一日から平成元年三月三一日まで

(4) 委託料 二三八万円

3  原告らは、平成元年二月二八日、岩国市監査委員に対し、本件各契約は違法であるから、その監査、是正及び損害填補の措置を求める趣旨の住民監査請求をしたが、岩国市監査委員は、同年四月二六日、原告らの請求は理由がない旨判断し、そのころ、原告らに対しその旨通知した。

二本案前の主張

1  被告の主張

地方自治法二四二条の二第一項四号は、普通地方公共団体の職員若しくは違法行為等の相手方に対し損害賠償等の訴えを提起し得る旨規定しているのにすぎず、普通地方公共団体の長に対し訴えを提起できる旨規定したものではないから、普通地方公共団体の長である被告には被告適格がない。

2  原告らの反論

地方自治法二四二条の二第一項四号の代位請求訴訟の性質及び目的からすると、同号の「当該職員」に普通地方公共団体の長が含まれる。

三原告らの主張

1  本件各契約締結の違法性

(一) 随意契約の方法による契約締結の違法

地方自治法は、普通地方公共団体の締結する契約につき、機会均等の理念に最も適して公正であり、かつ、価格の有利性を確保し得るという観点から、一般競争入札の方法によるべきことを原則とし、それ以外の方法を例外的なものとして位置づけている。そして、その例外的な方法の一つである随意契約の方法は、地方自治法二三四条二項及び同法施行令一六七条の二第一項所定の場合に限られている。ところで、本件各契約は、いずれも随意契約の方法により締結されたものであるところ、以下のような事情の下においては、本件各契約は、地方自治法施行令一六七条の二第一項二号の事由に該当しない。仮に、契約締結権限を有する者が右事由に該当するか否かの判断につき裁量権を有するとしても、本件各契約の目的、性質等具体的事情に鑑みると、随意契約の方法によったことは裁量権の逸脱ないし濫用に当たる。

(1) 本件各契約の相手方であるコレクトサービスの代表者である米田克己(以下「米田」という。)は部落解放同盟岩国支部の支部長であり、その従業員は解放同盟員であること、コレクトサービスは、部落解放同盟の運動の一環として設立されたものであること、右設立及び指名願いの手続は岩国市の同和対策課の指導によるものであること、岩国市と部落解放同盟との間では本件各契約締結前から交渉がなされ、部落解放同盟は右交渉において解放同盟員に市の仕事を与えるよう要求し、岩国市側は積極的な対応を迫られていたこと等の事情からすると、本件各契約は、実質的に特定の同和問題の民間運動団体に業務を委託したものであって、このような契約締結行為は、同和行政につき、行政の主体性が欠如した不公正なものといえること。

(2) 被告は、国及び山口県からの要請に基づき、本件各契約が技能を持たない低所得者の雇用の促進すなわち労働弱者雇用対策の目的で締結された旨主張するが、被告は、昭和六三年二月二九日開会の市議会における施政方針、予算説明その他の審議の中で右目的には何ら触れていないこと、被告主張のような国及び山口県から労働弱者の雇用促進の要請の事実はないこと等の事情からして、本件各契約が労働弱者雇用対策の目的で締結されたものではないこと。

(3) 被告主張の「労働弱者」に該当する者は、岩国市内に相当数存在し、それらの者は必ずしも失業対策事業任意就労者やシルバー人材センターに登録した者に限られないのであるから、仮に、失業対策事業任意就労者やシルバー人材センターの活用が困難であったとしても、市民に広く知らせて対象者を募るなどの方法の検討・実施がされていないこと、コレクトサービスは、創業したばかりの何の実績もない企業であって、指名願いの文面上だけからでは、設立の趣旨、従業員の年令、経歴、生活状況、技能の有無も分からないのであるから、「労働弱者雇用対策」の目的にかなう企業であるかにつき、何ら具体的な調査・検討がなされていないこと等の事情からして、本件各契約の相手方の選定につき合理的な手順が踏まれているとはいえないこと。

(4) 被告主張の「労働弱者雇用対策」は、ごく一般的には行政が行うべき重要な施策ということはできるが、本件各契約締結時において、それを随意契約の方法を用いてまで実施しなければならないほどの緊急性は認められないこと。

(5) 本件各契約の相手方としてコレクトサービスが決定された後の契約手続において、コレクトサービスの見積額が岩国市の設定額より一万円低い金額であるなど契約手続自体に不公正さを疑わせる事情があること。

(二) 岩国市財務規則(以下「財務規則」という。)違反

(1) 財務規則九九条は、契約担当者は、随意契約によろうとするときは、一般競争入札の場合に準じて予定価格を定めなければならない旨規定しているが、本件各契約においては、右規定に従った予定価格決定手続がなされていない。

(2) 財務規則一〇〇条は、契約担当者は、随意契約によろうとするときは、なるべく二人以上の者から見積書を徴さなければならない旨規定しているが、本件各契約においては、コレクトサービスの見積書を徴したのみである。

2  被告の故意又は過失

右1(一)記載の事情に加えて、被告は、本件各契約締結に先立って、岩国市において過去同様な随意契約の事例があったかどうかの検討や自治省及び山口県への照会もしておらず、本件各契約の適法性についての一般的な法的検討がかなり杜撰であって、被告に故意又は過失が存する。

3  損害

(一) 市道清掃業務委託契約について

(1)ア 委託料算出の基礎となる作業面積の設定について

被告主張の作業面積は、九万五〇〇〇平方メートルであり、対象となる市道の長さが九五七一メートルであるから、作業面積は一〇メートル幅と設定されていることになる。ところで、作業対象範囲は路肩及び道路法面である(道路面は含まれていない。)ところ、対象市道に平均で一〇メートルの路肩及び道路法面があるというのは実態に照らし広すぎ、作業面積は六メートル幅すなわち五万七四三六平方メートルと設定するのが相当である。

イ 一般管理費について

一般管理費の根拠には理由がない。

(2) 委託料は、別表一のとおり、九三万四八〇五円が相当であり、損害額は五八万五一九五円である。

(二) 河川等清掃業務委託契約について

(1)ア 積算基準としての堆積塵芥収集の数値の適用について

被告は、積算基準として堆積塵芥収集の数値を適用しているが、実際の塵芥量は一〇〇〇平方メートル当たり一立方メートル以下であって、散在塵芥収集の数値を適用すべきである。

また、岩国市の見積りは、清掃面積一〇〇〇平方メートル当たりに堆積する塵芥量を4.3立方メートルとの前提で算出しているが、この数値には何ら実体的な根拠はなく、堆積塵芥収集の数値を用いたとしても、あまりにも実体とかけはなれている。

さらに、右清掃作業は、年間四回・三か月ごとに実施するものとされているところ、一回目の作業の時点では塵芥量は比較的多いかもしれないが、二回目以降はずっと少なくなると推測でき、少なくとも二回目以降の作業については、散在塵芥収集の数値が妥当するというべきである。

イ 一般管理費について

一般管理費の根拠には理由がない。

(2) 委託量は、別表二のとおり、八三万円が相当であり、損害額は七六三万円である。

(三) 発泡スチロール溶融処理等業務委託契約について

(1)ア 被告は、発泡スチロール等溶融処理業務の世話役に一般運転手の単価を適用しているが、その作業内容からして、発泡スチロールの選別収集業務の場合の世話役と別の単価を適用すべき理由はない。

イ 発泡スチロール等溶融処理業務は処理機械の運転をともなうものであるが、あくまで試運転の段階にあるのだから、溶融等運転管理のための軽作業員を一日当たり一人とするのは相当ではなく、一日当たり0.5人程度が相当である。

(2) 委託料は、別表三のとおり、二三一万六一五五円が相当であり、損害額は六万三八四五円である。

四被告の主張

1  本件各契約締結の適法性

(一) 随意契約の方法による契約締結の適法性

(1) 市道清掃業務委託契約及び河川等清掃業務委託契約締結の経緯

被告は、岩国市長就任後の昭和六二年に市道及び河川の清掃を内容とする環境美化事業の実施を発案し、助役を中心に協議した結果、右環境美化事業の実施が決定して昭和六三年度予算に計上された。

昭和六三年一月ころ、国及び山口県から岩国市(経済部)に対し、技能を持たない労働者いわゆる労働弱者の雇用を促進するよう要請があったため、岩国市では、同年二月ころ、経済部長が助役及び各部長と協議した結果、右環境美化事業を労働弱者雇用対策の一環として実施することが決定した。

昭和六三年三月一八日、市議会において、昭和六三年度予算案が可決・成立したので、助役及び関係各部長間において環境美化事業の発注先の決定方法につき協議がなされ、同年四月半ばごろまでに、技能を持たない労働者に雇用の機会を与えるという政策目的から競争入札のように競争原理に基づいて決定するのは適当ではなく、随意契約の方法によるべきであるとの結論に固まった。

昭和六三年四月半ばから、関係各部長間で契約の相手方が具体的に検討され、当時存在した労働弱者グループとしては、失業対策事業任意就労者、シルバー人材センター及びコレクトサービスがあったが、失業対策事業任意就労者については業務の性質上不適当であり、シルバー人材センターについては受託を拒絶され、その結果、コレクトサービスが契約の相手方として浮上した。その後、コレクトサービスから見積書を徴したところ、それぞれ予定価格にほぼ一致した金額であったため、被告は、市道清掃業務委託契約及び河川等清掃業務委託契約の相手方をコレクトサービスとすることを決定し、昭和六三年五月一日、右各契約を締結した。

(2) 発泡スチロール溶融処理等業務委託契約締結の経緯

岩国市川西所在の岩国市不燃物処理場においては、かねてより同処理場内に搬入される発泡スチロールが量的にかさばること、搬入された廃蛍光管から漏出する水銀公害が問題となっており、その対策が迫られていた。右処理場を管轄する岩国市環境施設課は、種々検討した結果、発泡スチロールは処理施設で溶融固化して小さく固めた上で埋立処分することとし、廃蛍光管は処理施設で破砕して水銀ガスを回収する方法を採ることになった。

ところで、発泡スチロール及び廃蛍光管の選別収集作業並びに処理施設の運転作業は、単純労務作業であるから、市道及び河川の清掃業務と同じく労働弱者に発注し、国及び山口県から要請されていた労働弱者の雇用機会確保に当てることとし、その結果、おのずと、随意契約の方法によることに決定した。そして、失業対策事業任意就労者については業務の性質上不適当であり、シルバー人材センターについては受託を拒絶されることが明白であったので、実績のあったコレクトサービスが契約の相手方の最有力候補となり、前記市道清掃業務委託契約等締結の際と同様の手続を経た上、被告は、昭和六三年一二月一日、コレクトサービスとの間で発泡スチロール溶融処理等業務委託契約を締結した。

(3) 以上のとおり、被告は、本件各契約の相手方を競争入札のように競争原理に基づいて決定することは本件各決定の目的及び性質に照らして適当ではなく、地方自治法施行令一六七条の二第一項二号に該当する旨判断し、本件各契約を随意契約の方法によって締結することにしたものであり、被告の右判断は正当であり、裁量権の逸脱又は濫用はない。また、相手方の選定についても、岩国市内のいわゆる労働弱者グループの中から消去法で選定したものであり、不公正もしくは不明朗な点はない。

(二) 財務規則違反の主張に対する反論

(1) 財務規則九九条について

本件各契約担当者は、本件各契約の予定価格を定めており、予定価格調書も作成されている。

(2) 財務規則一〇〇条について

見積書を複数の者から徴するのが適当な場合は、地方自治法施行令一六七条の二第一項一号などのように競争原理を働かす場合であり、本件各契約のように競争原理に基づくのが適当でない場合には、むしろ一人のみから見積書を徴するのが常態である。

2  故意又は過失の主張に対する反論

岩国市の総務課法制部門は、本件各契約の締結に先立ち、随意契約に関する行政実例、地方自治法及び同法施行令の解説・判例を詳細に検討した結果、適法であると判断したものであり、被告には故意・過失はない。

3  損害についての反論

本件各契約の委託料は、建設省土木工事積算基準等に基づいて算出した正当な金額である。

(一) 市道清掃業務委託契約について

(1) 代価

一般世話役、軽作業員及びダンプトラック運転費の単価は、昭和六三年度労務省略単価表により、同じく数量は建設省土木工事積算基準の散在塵芥収集の施工歩掛により算出した。また、諸雑費は、山口県設計標準歩掛表により、単価合計の0.5パーセントを計上した。以上を合計して一〇〇〇平方メートル当たり一六四四円を道路清掃のコストとして算出した。

(2) 本業務費

市道七八号線外一二路線の総面積が九万五〇〇〇平方メートルで年間六回の清掃を予定しているので、延清掃面積は五七万平方メートルとなるから、道路清掃費は一六四四円に五七〇を乗じて九三万七〇八〇円となる。

(3) 共通経費

すべて建設省土木工事積算基準に定めた係数を右金額に乗じて算出したものである。

(4) 現場管理費及び一般管理費

現場管理費は、建設省土木工事積算基準に定めた係数0.1962を純経費の合計額一一一万三七一八円に乗じて算出した。また、一般管理費は、右基準に定めた係数0.1608を現場管理費までの合計額一三三万二二二九円に乗じて算出した金額を委託料の端数処理のため低額に修正したものである。

(二) 河川等清掃処理業務委託契約について

(1) 代価

一般世話役、普通作業員、軽作業員及びダンプトラック運転費の単価は、昭和六三年度労務省略単価表により、同じく員数は、建設省土木工事積算基準の堆積塵芥収集のうち「人力による収集」及び「運搬」の施工歩掛により算出した。ただし、本清掃業務は水中の作業を伴うので、一般世話役、普通作業員及び軽作業員については、1.3倍にしている。諸雑費は山口県設計標準歩掛表により、人件費合計額の0.5パーセントを計上した。以上により、一〇立方メートル当たりの合計金額は五万三四四〇円となるが、清掃面積一〇〇〇平方メートル当たりに堆積する塵芥量はおよそ4.3立方メートルであるから、一立方メートル当たりの河川清掃単価コストは二二円となる。

(2) 本業務費

清掃対象河川の総面積が六万一三五〇平方メートルで年間四回の清掃を予定しているので、延清掃面積は二四万五四〇〇平方メートルとなるから、河川清掃費は、二二円に二四万五四〇〇を乗じた五三九万八八〇〇円となる。

(3) 共通経費

共通経費は、すべて建設省土木工事積算基準に定めた係数を右金額に乗じて算出するのであるが、右係数の算定は複雑なので、建設省の補助事業等土木請負工事工事費積算基準に右係数を算定した簡便一覧表があるので、右一覧表により各共通経費の係数を摘出して右金額に乗じた。

(4) 現場管理費及び一般管理費

現場管理費及び一般管理費は、建設省土木工事積算基準によって係数を算定すべきところ、算定式が複雑なので、右係数を算定して簡便に一覧表にした建設省の土木請負工事工事費積算基準により係数を摘出した。それによると、現場管理費の係数は0.1819、一般管理費の係数は0.1414となるから、現場管理費は純経費までの金額六二九万〇六八一円に係数0.1819を乗じて一一四万四二七四円と算出し、一般管理費は現場管理費までの金額七四三万四九五五円に係数0.1414を乗じて一〇三万五〇四五円と算出した。また、一般管理費については、算出額一〇五万一三〇二円を委託料の端数処理のために低額に修正したものである。

(三) 発泡スチロール溶融処理等業務委託契約について

(1) 代価

発泡スチロールの選別収集の代価(第一号代価表・〈書証番号略〉・一日当たりの代価)については、世話役は、確認誘導のほか計量室前での作業を任務としているので、昭和六三年度山口県労務・資材単価表の一般世話役ではなく、単価の低い普通作業員の単価を、軽作業員は同単価表の単価を適用し、人数は世話役、軽作業員とも一日に各一人とした。また、諸雑費は、山口県設計標準歩掛表により人件費合計額の0.5パーセントを計上した。

発泡スチロールの溶融処理業務の代価(第二号代価表・〈書証番号略〉・一日当たりの代価)については、世話役は、確認誘導のほか溶融固形物運搬処理を任務としているので、昭和六三年度山口県労務・資材単価表の一般世話役ではなく、単価の低い一般運転手の単価を、軽作業員は同単価表の単価を適用した。人数は、世話役一人、軽作業員は選別投入と溶融等運転管理の担当を各一人計二人とした。また、諸雑費は人件費合計額の0.5パーセントを計上した。

(2) 本業務費

本業務費は、第一号代価の金額と第二号代価の金額にそれぞれ作業日数を乗じて算定した。

(3) 諸経費

諸経費の経費率は、環境施設課の発注する工事の場合、同課が独自に定めた経費率表によることとしており、右経費率をそれぞれ本業務費等直前までのコストに乗じて算定した。

五争点

1  地方自治法二四二条一項四号の「当該職員」に地方公共団体の長が含まれるか、いいかえれば、被告に本件訴訟の被告適格があるか否か(本案前の主張)。

2  被告が本件各契約を随意契約の方法により締結したことに違法性が存するか否か。

3  本件各契約締結手続が財務規則に違反するか否か。

4  仮に、本件各契約を随意契約の方法により締結したことに違法性が存するか又は本件各契約手続が財務規則に反する場合、右契約の締結につき、被告に故意又は重過失があるか否か。

5  損害の有無

第三争点に対する判断

一争点1(本案前の主張)について

地方自治法二四二条の二第一項の定める住民訴訟は、普通地方公共団体の執行機関又は職員による同項所定の財務会計上の違法な行為又は怠る事実が究極的には当該地方公共団体の構成員である住民全体の利益を害するものであるところから、これを防止するため、地方自治の本旨に基づく住民参政の一環として、住民に対し、その予防又は是正を裁判所に請求する権能を与え、もって地方財務行政の適正な運営を確保することを目的としたものであると解されるところ、右住民訴訟制度の趣旨からすると、同項四号所定の「当該職員」とは、当該訴訟において、その適否が問題とされている財務会計上の行為を行う権限を法令上本来的に有するものとされている者及びこれらの者から権限の委任を受けるなどして右権限を有するに至った者を広く意味すると解するのが相当であり(最高裁昭和六二年四月一〇日判決民集四一巻三号二三九頁参照)、右「当該職員」には普通地方公共団体の長が長であるが故に含まれないとの被告の主張は独自の見解という外ない。しかして、被告が岩国市長として岩国市の契約締結権限を有することは当事者間に争いがないので、被告が「当該職員」に当たることは明らかである。

よって、被告は、本件訴訟の被告適格を有するものというべきである。

二争点2(本件各契約を随意契約の方法によることについての違法性の有無)について

1  本件各契約締結の経緯

証拠(〈書証番号略〉、証人山本満治、同西川一敏、同長嶺進(ただし、後記採用しない部分を除く。)、同森脇理之、同米田克己、同河野早苗、同池元幸信、被告、弁論の全趣旨)によると、以下の事実が認められる。

(一) 被告は、昭和六二年に岩国市長に就任した後、特に道路及び河川の汚れが目立つため、市道及び河川の清掃を内容とする環境美化運動を発案した。右発案に基づき、長嶺進助役(以下「長嶺助役」という。)、足助之義建設部長(以下「足助建設部長」という。)、環境部長及び財政部長は、昭和六二年一二月ころ、昭和六三年度予算編成において、道路及び河川の清掃業務である環境美化事業をどのように実施するかを検討し、その結果、右事業に関し一〇〇〇万円を環境部の予算として取り上げることとした(以下、右事業を「環境美化事業」という。)。右事業を含む昭和六三年度予算案は、同年三月一八日、岩国市議会において可決・成立した。

(二) 米田は、かつて建設業やゲーム機リース業を営んでいたが、右事業が倒産した後の昭和五六年ころから部落解放同盟の運動に携わり、同五九年ころからは部落解放同盟岩国支部長及び同山口県連の財務委員長として右運動に専念していた。そして、米田は、岩国市同和対策課に所属する同和対策担当部長河野早苗の在任中である昭和六二年四月から翌年三月末ころまでの間、同和問題関係の話などをするため一週間に一、二度の割合で右同和対策課を訪れ、その都度一時間余の間同課に滞在した。また、米田は部落解放同盟岩国支部支部長として、同支部役員らとともに、昭和六二年五月二九日、同年八月一七日及び同年一一月九日の少なくとも三回にわたり、岩国市長に就任した被告との間で同和問題に関する交渉を行った。右交渉の際には、毎回同一ではなかったものの、市長である被告をはじめ長嶺助役、同和対策担当部長、総務部長、財政部長、足助建設部長及び環境部長らが出席した。右交渉において、米田らは、被告に対し、同和問題に関する被告の基本的な考え方を示すことを求めるとともに、被差別部落住民の職業の安定に関する要求を含む部落解放同盟岩国支部としての各種要求を行った。被告は、右要求に対し被差別部落住民に雇用の場を与え、雇用の拡大につき努力する旨応答した。

米田は、部落解放同盟員の中には職業が安定せず、生活に困窮している者もいたため、昭和六三年三月初めころ、部落解放同盟の運動の一環として、右同盟員の職業の安定を図ることを目的とし、右同盟員六名を従業員として雇用するコレクトサービスを設立した。右コレクトサービスの事務所としては、米田が自己資金を投入して開設した部落解放同盟岩国支部の事務所が充てられ、また、右コレクトサービスの事業執行のために必要な自動車は米田が自己資金をもって購入した。そして、米田は、岩国市の同和対策担当部長であった河野早苗に対し、コレクトサービスとして岩国市の事業を受注したい旨相談したところ、右河野から市の事業を受注するためには、指名願いの提出等市の規定に従った所定の手続をしなければならない旨の指導を受けた。そこで、米田は、同月三一日、コレクトサービスを同日に設立したとして、岩国市長である被告に対し、建設工事等入札参加資格審査申請書(〈書証番号略〉)を提出した。右申請書には、コレクトサービスが昭和六三年三月三一日に設立されたこと、登録事業の種類が清掃事業であること、職員の数が六名であること(いずれも特に資格等を有する者以外である「その他」の欄に記載)及び普通貨物自動車一台を有していることが記載されていたが、当然のこととしてコレクトサービスには何らの営業実績はなかった。そして、米田は、右申請書を提出する一か月位前から足助建設部長に対し、被差別部落の住民の職業安定のために仕事がないだろうかとの相談を持ちかけていたが、右申請書の提出後、改めて足助建設部長をはじめ岩国市の各部の部長あるいは課長に対し、従業員が部落解放同盟員であること等コレクトサービスについての説明を行うとともに、被差別部落の中には力のない者がおり、その者らの職業の安定のために岩国市の事業を受注したいのでよろしくお願いする旨要請した。

(三) 長嶺助役、足助建設部長、環境部長及び経済部長らは、昭和六三年度予算成立後、本件環境美化事業が軽作業でかつ単純作業であることから、労働弱者の雇用対策の一環として行うことを決定し、昭和六三年四月ころ、右目的に照らし、右事業を随意契約の方法によって締結することとした。なお、岩国市の右担当者らは、「労働弱者」とは、労働意欲はあるが技術を持たずあるいは技能を持たないため一般の事業者から雇用されない者、生活の不安定な者を総称して呼称する言葉として使用している。そして、右契約の相手方としては、失業対策事業、失業対策事業任意就労者、シルバー人材センターと足助建設部長からの進言により、指名願いが出ていたコレクトサービスを検討の対象とした。しかしながら、失業対策事業については、国の補助事業であるため、事業計画に上げなければならないこと及び対象者が高齢者であることを理由に、また、失業対策事業任意就労者については、対象者が高齢者であって、道路及び河川の清掃業務が危険であること等を理由にいずれも本件環境美化事業の対象とすることは適当でない旨判断し、シルバー人材センターについては、右事業につき照会したところ、道路及び河川の清掃業務に危険が伴うこと、また、技能を生かしたいという希望者が多く、単純労働については年間を通じ人手を確保することが困難であるということから、断念せざるを得なかった。そこで、コレクトサービスのみが契約の相手方として検討されることになった。

(四)(1) 岩国市建設部河川維持課においては、昭和六三年四月二〇日、河川等清掃業務委託契約について、業務仕様書を作成し、実施予算額を八四七万円とした上、地方自治法施行令一六七条の二第一項二号により、右契約を技能を持たない低所得者の雇用の促進を図る目的とすることとし、足助建設部長からコレクトサービスが右目的をもって結成されているとの説明があったため、指名業者をコレクトサービスとすること、また、足助建設部長の指示により、コレクトサービスのみから見積書を徴することを決定した。そして、長嶺助役は、同月二八日、右河川等清掃業務委託契約につき予定価格を決定して予定価格調書を作成した。

米田は、その頃、右道路維持課長から河川等清掃業務の仕事がある旨連絡を受けて岩国市役所に出頭し、仕様書等資料を受け取った。このようにして河川等清掃業務委託契約の指名業者となったコレクトサービスは、同月二八日、被告に対し、右契約の見積額を八四六万円とする見積書を提出した。右見積額は、予定価格よりほぼ一万円低額であったため、被告は、岩国市長として、同年五月一日、コレクトサービスとの間で河川等清掃業務委託契約を随意契約の方法により締結した。

(2) また、岩国市建設部道路港湾課においては、昭和六三年四月二七日、市道清掃業務委託契約について、業務仕様書を作成し、実施予算額を一五三万円とした上、右河川等清掃業務委託契約と同様に、地方自治法施行令一六七条の二第一項二号により、右契約を技能を持たない低所得者の雇用の促進を図る目的とすることとし、足助建設部長からの説明・指示により、指名業者をコレクトサービスとすること及びコレクトサービスのみから見積書を徴することを決定した。そして、足助建設部長は、右同日、右市道清掃業務委託契約につき予定価格を決定して予定価格調書を作成した。

米田は、そのころ、前同様に右道路港湾課長から市道清掃業務の仕事がある旨連絡を受けて岩国市役所に出頭し、仕様書等資料を受け取り、コレクトサービスとして市道清掃業務委託契約の指名業者となった。そして、コレクトサービスは、同月二八日、被告に対し、右契約の見積額を一五二万円とする見積書を提出した。右見積額は、予定価格より一万円低額であったため、被告は、岩国市長として、同年五月一日、コレクトサービスとの間で市道清掃業務委託契約を随意契約の方法により締結した。

(3) 岩国市総務課文書法令係においては、右市道清掃業務委託契約及び河川等清掃業務委託契約締結に先立ち、右契約を随意契約の方法により締結することの適法性について調査し、他の地方公共団体において同様の契約締結事例があったかについてまでは調査していないものの、地方自治法施行令一六七条の二第一項二号所定の随意契約の締結が認められる場合の列挙項目が例示である旨の自治省の通達があり、また、右契約の目的がいずれも労働弱者雇用対策であることの説明を受けていたため、適法である旨判断した。

(五)(1) 岩国市においては、かねてから不燃物処理場に計画量以上の廃棄物が搬入され、その中でも発泡スチロールが量的にかさばることから、これを処理施設において溶融固化して埋め立てること、また、水銀公害の問題に対処するため、廃蛍光管を処理施設において破砕処理することとなり、右事業実施のため、昭和六三年九月の補正予算において予算計上した。そして、右事業を執行するため、廃棄物処理場に持ち込まれた発泡スチロール及び廃蛍光管を選別する作業を行う必要がでてきた。そこで、長嶺助役、環境部長及び財政部長らは協議した結果、右選別作業が単純作業であることから、市道清掃業務委託契約及び河川等清掃業務委託契約と同様に労働弱者雇用対策の目的で実施、右両契約の相手方選定の経緯から、コレクトサービスを発泡スチロール溶融処理等業務委託契約の相手方として検討することとした。

(2) 岩国市環境部環境施設課においては、昭和六三年一一月一六日、発泡スチロール溶融処理等業務委託契約について、業務仕様書を作成し、実施予算額を二四一万二〇〇〇円とした上、地方自治法施行令一六七条の二第一項二号により、右契約を技能を持たない低所得者の雇用の促進を図る目的とすることとし、環境部長からコレクトサービスが右目的をもって結成されているとの説明があったため、指名業者をコレクトサービスとすることを決定した。そして、環境部長は、同月一八日、右発泡スチロール溶融処理等業務委託契約につき予定価格を決定して予定価格調書を作成した。

コレクトサービスは、右のとおり、発泡スチロール溶融処理等業務委託契約の指名業者となり、同月二九日、被告に対し、右契約の見積額を二四五万円とする見積書を提出した。右見積額は、予定価格を上回っていたため、コレクトサービスは、右同日、再度、見積額を二三八万円とする見積書を提出した。右見積額は、予定価格を下回っていたため、被告は、岩国市長として、昭和六三年一二月一日、コレクトサービスとの間で発泡スチロール溶融処理等業務委託契約を随意契約の方法により締結した。

(六) なお、岩国市事務決済規程によると、本件各契約のうち河川等清掃業務委託契約については助役、市道清掃業務委託契約については建設部長、発泡スチロール溶融処理等業務委託契約については環境部長がそれぞれ契約担当者であって、右の者が契約締結につき市長である被告から専決権限を授与された。

以上のとおり認められる。

ところで、被告は、昭和六三年一月ころ、国及び山口県から岩国市に対し、技能を持たない労働者、いわゆる労働弱者の雇用促進の要請があり、右要請に基づき、本件各契約を労働弱者の雇用促進の目的として随意契約の方法により締結した旨主張し、証人長嶺進は、右主張に沿う証言をするので検討するに、確かに、山口県職業安定課長の主催でシルバー人材センター業務担当者会議が昭和六三年二月一三日に開催され、右会議において、失業対策任意就業事業を引退する者に対する施策の要請がなされたものの、右要請は、失業対策任意就業事業を引退する者等高齢者に対する施策を市町村に要請するものであり、一般的に労働弱者の雇用促進を要請したものとまで認めることはできず(〈書証番号略〉、証人池元幸信)、また、国及び山口県から地方自治体に対し一定の政策を要請する場合においては、一般に文書による要請がなされるところ(証人長嶺進)、特に、被告主張のような国及び山口県から労働弱者の雇用促進の政策要請の文書は存在しないことからすると、証人長嶺進の右証言部分は採用することができない。

よって、被告主張のような国及び山口県から技能を持たない労働者、いわゆる労働弱者の雇用促進の要請があったと認めることはできない。

2  本件各契約の違法性について

地方自治法は、地方公共団体が契約を締結する場合の契約締結方法として、一般競争入札、指名競争入札、随意契約及びせり売りの四種類を定め(同法二三四条一項)、このうち、一般競争入札を原則とし、それ以外の方法による契約締結は、政令の定める場合に該当するときに限り許されるものとしている(同条二項)。これは、法が、普通地方公共団体の締結する契約については、機会均等の理念に最も適合して公正であり、かつ、価格の有利性を確保し得るという観点から、一般競争入札の方法によるべきことを原則とし、それ以外の方法を例外的なものとして位置づけているものと解することができる。そして、そのような例外的な方法の一つである随意契約によるときは、手続が簡略で経費の負担が少なくてすみ、しかも、契約の目的、内容に照らしそれに相応する資力、信用、技術、経験等を有する相手方を選定できるという長所がある反面、契約の相手方が固定化し、契約の締結が情実に左右されるなど公正を妨げる事態を生じるおそれがあるという短所も指摘され得ることから、同法施行令一六七条の二第一項は前記地方自治法の趣旨を受けて同項に掲げる一定の場合に限定して随意契約の方法による契約の締結を許容することとしたものと解することができる。ところで、同項二号に掲げる「その性質又は目的が競争入札に適しないものをするとき」とは、不動産の買入れ又は借入れに関する契約のように当該契約の目的物の性質から契約の相手方がおのずから特定の者に限定されてしまう場合や契約の締結を秘密にすることが当該契約の目的を達成する上で必要とされる場合など当該契約の性質又は目的に照らして競争入札の方法による契約の締結が不可能又は著しく困難というべき場合のほか、競争入札の方法によること自体が不可能又は著しく困難とはいえないが、不特定多数の者の参加を求め競争原理に基づいて契約の相手方を決定することが必ずしも適当ではなく、当該契約自体では多少とも価格の有利性を犠牲にする結果になるとしても、普通地方公共団体において当該契約の目的、内容に照らしそれに相応する資力、信用、技術、経験等を有する相手方を選定しその者との間で契約の締結をするという方法をとるのが当該契約の性質に照らし又はその目的を究極的に達成する上でより妥当であり、ひいては当該普通地方公共団体の利益の増進につながると合理的に判断される場合も同項二号に掲げる場合に該当するものと解すべきである。そして、右のような場合に該当するか否かは、契約の公正及び価格の有利性を図ることを目的として普通地方公共団体の契約の締結の方法に制限を加えている前記地方自治法及び同法施行令の趣旨を勘案し、個々具体的な契約ごとに、当該契約の種類、内容、性質、目的等諸般の事情を考慮して当該普通地方公共団体の契約担当者の合理的な裁量判断により決定されるべきものと解するのが相当である(最高裁昭和六二年三月二〇日判決・民集四一巻二号一八九頁参照)。

そこで、右のような観点から本件各契約を随意契約の方法によって締結したことが適法であるか否かについて検討するに、前記認定事実によると、市道清掃業務及び河川等清掃業務は、被告の環境美化運動の発案を端緒として、長嶺助役らが右運動を具体的するため協議・検討した結果策定された事業であるところ、右市道清掃業務委託契約及び河川等清掃業務委託契約自体の性質又は目的に照らすと、競争入札の方法による契約締結が不可能又は著しく困難というべきでないし、また、不特定多数の者の競争原理に基づいて契約の相手方を決定することが適当でないともいえないというべきである。もっとも、本件環境美化事業に関する協議・決定の過程で、右市道清掃業務委託契約及び河川等清掃業務委託契約を労働弱者雇用対策の目的とする旨の政策決定がなされたこと、右各清掃業務が軽作業でかつ単純作業であることからすると、右政策決定には合理性があるということができるし、右政策目的を達成するため、両契約を随意契約の方法によって、締結することと決したこともあながち不合理であるとはいえない。

問題は、被告とコレクトサービスとの間における本件各契約の締結が「その性質又は目的が競争入札に適しない」場合に当たるかどうか、被告あるいは本件各契約担当者において、右の場合に当たるとしたことが合理的な裁量判断といえるかどうかである。よって案ずるに、被告が岩国市長に就任した後で本件各契約が締結されるまでに行われた米田を支部長とする部落解放同盟岩国支部と被告との間の同和問題に関する交渉の際に、右米田から被告に対し被差別部落の住民の職業安定についての要求がなされ、これに対し、被告は右要求に応ずるよう努力する旨答えていたこと、米田は、岩国市において市道清掃業務委託契約及び河川等清掃業務委託契約の検討がなされていたのと時期を同じくして、部落解放同盟の運動の一環として右部落解放同盟の同盟員を従業員とするコレクトサービスを設立したこと、米田は、岩国市同和対策課の指導に基づいて建設工事等入札参加資格審査請求書を提出し、右申請書には登録事業の種類として右両契約の内容と同一の清掃事業のみが記載されていること、しかし、コレクトサービスには、清掃事業をはじめ何らの営業実績もなかったこと、米田は、コレクトサービス設立後、足助建設部長等に対し、市の事業の受注を頼んでいること、前記のとおり、右両契約の相手方としてシルバー人材センター等を検討の対象とし、また、それらとの契約締結を断念せざるを得ない事情があったとしても、労働弱者雇用対策が真の目的であるならば、岩国市内の労働弱者について調査等をした上で契約の相手方を検討してしかるべきであるのに、それらの検討がなされていないこと(弁論の全趣旨)等の契約締結に至る経緯等前記認定の諸事情を総合勘案すると、被告は、米田からなされていた被差別部落の住民の職業安定についての要求に応じる趣旨で、たまたま労働弱者の雇用促進のためとして政策決定していた市道清掃業務及び河川等清掃業務を、部落解放同盟の運動の一環として設立されたコレクトサービスに受注させるために市道清掃業務委託契約及び河川等清掃業務委託契約を締結したものと認めるのが相当である。また、発泡スチロール溶融処理等業務委託契約についても、その契約締結の経緯等前記認定の諸事情に徴すると、右両契約と同様にコレクトサービスに事業を受注させるためになされたものであると認めることができる。しかして、一般的に被差別部落の住民あるいは部落解放同盟員の職業が安定せず、いわゆる労働弱者に該当することがあるとしても、これをもって岩国市民一般の労働弱者を包括し得るものではないことからすると、本件各契約は、結果的に部落解放運動を実施する一民間運動団体を優遇することになり、労働弱者の雇用促進を図る行政施策として公平であるか疑問なしとしないし、右政策目的を達成する上で必ずしも妥当であるともいい難い。しかしながら、前記のとおり、当該契約が地方自治法施行令一六七条の二第一項二号所定の「その性質又は目的が競争入札に適しないものをするとき」に該当するかどうかの決定については、契約担当者の合理的な裁量に委ねられており、右裁量判断に当たっては当該地方公共団体における政策決定又は政治的要素を考慮することも許容されるというべきであるから、右契約担当者の判断が明らかに不合理であると認められる場合以外は直ちにこれを違法とするのは相当でないと解するところ、長嶺助役らは、本件各契約締結に際し、その相手方として、失業対策事業、失業対策事業任意就労者及びシルバー人材センターを検討した結果、いずれも不適あるいは断念せざるを得ないと判断したため、当時、指名願いが提出されていたコレクトサービスを契約の相手方として検討するに至ったこと、岩国市に提出された建設工事等入札参加資格審査申請書には、コレクトサービスの従業員は特に資格等を有するものではないとされ、また、米田から右従業員の職業は安定していないとして説明がなされていたことから、被告あるいは本件各契約担当者において、コレクトサービスが労働弱者をもって構成されるものと判断したこともやむを得ないこと、岩国市において、同和推進団体として登録されている主たる団体は部落解放同盟岩国支部のみであること(証人河野)からすると、コレクトサービスとの間で本件各契約を締結することは、職業が安定せず生活に困窮している者に雇用の機会を与えることとなるのであって、それは、結果として被告らが目的とする労働弱者の雇用促進対策に一部資することになる等の事情を総合勘案すると、被告あるいは本件各契約担当者がコレクトサービスを相手方として本件各契約を締結することをもって、本件各契約の性質又は目的が競争入札に適しない場合に当たると判断したことが明らかに不合理であるということはできないし、被告らに委ねられた裁量権を逸脱・濫用したものとまでいうこともできない。

よって、被告がコレクトサービスとの間において、本件各契約を随意契約の方法によって締結したことは必ずしも妥当であったとはいい難いものの、これが前記法令の規定に反し違法であるとまで断ずることはできない。

三争点3(財務規則違反)について

1  財務規則九九条違反について

財務規則九九条によると、随意契約を締結する場合においては、契約担当者があらかじめ予定価格を定めなければならない旨規定しているところ(〈書証番号略〉)、原告らは、本件各契約につき予定価格決定手続がなされておらず、本件各契約締結が違法である旨主張するので検討するに、前記二1の認定のとおり、本件各契約の担当者は、本件各契約締結前に予定価格を定め、予定価格調書を作成したことが認められるから、原告らの右主張は理由がない。

2  財務規則一〇〇条違反について

財務規則一〇〇条によると、随意契約を締結する場合においては、契約担当者がなるべく二人以上の者から見積書を徴さなければならない旨規定しているところ(〈書証番号略〉)、原告らは、本件各契約においては、コレクトサービスのみから見積書を徴したのみで、右規定に違反し、本件各契約締結が違法である旨主張するので検討するに、前記二1の認定のとおり、本件各契約締結に際しては、本件各契約担当者はコレクトサービスのみから見積書を徴したにすぎないことが認められるものの、随意契約の性質からすると、複数のものから見積書を徴することが相当ではない場合が存することも肯定できないではなく、右趣旨から、同条も「なるべく」二人以上の者から見積書を徴する旨規定していると解することができ、たとえ、右二1の認定説示のとおり、本件各契約を随意契約の方法により締結することが違法であったとしても、コレクトサービスのみから見積書を徴したことが財務規則一〇〇条の規定に反するとまではいえないと解するのが相当であり、原告らの右主張も理由がない。

四争点5(損害)について

すすんで、本件各契約を随意契約の方法により締結したことにより損害が発生したか否かについて念のため検討する。

1  市道清掃業務委託契約について

(一) 作業面積の設定について

原告は、作業対象範囲が路肩及び道路法面であるところ、対象市道に平均で一〇メートルの路肩及び道路法面があるというのは実態に照らし広すぎる旨主張するので検討するので案ずるに、市道清掃業務委託契約においては、その委託業務内容が路肩及び道路法面等に散乱した廃棄物の収集、運搬処理であって、業務仕様書によると、清掃の対象市道の長さが九五七一メートルであり、その対象面積が九万五〇〇〇平方メートルとされていること(〈書証番号略〉)からすると、対象市道の「路肩及び道路法面等」を約一〇メートルと算出していることが認められる。ところで、建設部道路港湾課においては、市道清掃業務委託契約を締結する際に対象となる市道の現地確認を行い、路肩及び道路法面等の面積を検討し、その際、少なくとも一部は車両が通行する道路面も右対象清掃面積に含めて算出したことが認められる(証人山本満治一二六ないし一三七項)が、右業務内容が路肩及び道路法面「等」であって、厳格に路肩及び道路法面に限定しているものではなく、また、対象市道全部につき「路肩及び道路法面等」を正確に算定することが困難であること(弁論の全趣旨)からすると、対象市道の「路肩及び道路法面等」を約一〇メートルと算定したことをもって実態に照らし広すぎるとまではいうことはできない。

よって、原告らの右主張は理由がない。

(二) 一般管理費について

原告らは、一般管理費の算出根拠が不明である旨主張するので案ずるに、市道清掃業務委託契約の業務仕様書(〈書証番号略〉)によると、一般管理費を一九万七七七一円としているが、右算出方法は、純経費一一一万三七一八円及び現場管理費二一万八五一一円の合計額一三三万二二二九円に建設省土木工事積算基準別表第三の一般管理費等率16.08パーセント(工事原価一〇〇万円以下の率)を適用した上(計算上は二一万四二二二円となる。)、委託料端数処理のため低額に修正したことが認められる(〈書証番号略〉弁論の全趣旨)。そうすると、右算出においては、工事原価が一〇〇万円を超えているものの、おおよそ一〇〇万円であることから、建設省土木工事積算基準別表第三の工事原価一〇〇万円以下の率を適用し、その上で委託料に一万円以下の端数がでないようにするために一万六〇〇〇円余り低額に修正しているものということができ、以上を総合すると、右算出においては、建設省土木工事積算基準におよそ基づくものであり、かつ、損害も認められないから、原告らの主張は理由がない。

2  河川等清掃業務委託契約について

(一) 堆積塵芥収集の数値の適用等について

原告らは、堆積塵芥収集の数値を適用すること、また、仮に堆積塵芥収集の数値を適用したとしても、塵芥量を一〇〇〇平方メートル当たり4.3立方メートルとすることは実態とかけはなれていること、さらに、清掃作業が年間四回で三か月ごととされていることからして、二回目以降は散在塵芥収集の数値を適用すべきである旨主張するので、右の点につき判断する。

河川等清掃業務委託契約における委託金額の算出については、建設省土木工事積算基準によると、塵芥処理工法には堆積塵芥収集と散在塵芥収集の二種類があるところ、塵芥量が一〇〇〇平方メートル当たり一立方メートル(一平方メートル当たり空き缶で二固程度)以下の場合には散在塵芥収集とし、それ以上の場合には堆積塵芥収集を標準とすること、また、堆積塵芥六〇平方メートル以上、重量物又は別作業で該当機械を使用する場合は機械収集とし、機械収集が不適当な場合は人力収集を標準とすることになっていること(〈書証番号略〉)、河川維持課においては、清掃対象河川の現地を確認し、その塵芥量を判断した上で、河川等清掃業務委託契約につき、塵芥処理工法として堆積塵芥収集かつ人力による収集の工法を選択し、さらに、一〇〇〇平方メートル当たり4.3立方メートルの塵芥量があることを前提に委託金額の算出をしたこと(〈書証番号略〉、証人西川一敏)が認められ、右算出方法に何ら不合理なところはない。原告らは、被告が基準とする塵芥量が存在しない根拠として、平成三年六月一日及び同月八日に原告らが河川等清掃業務委託契約の対象河川を調査した資料(〈書証番号略〉)を提出するが、右調査期日は、河川清掃委託契約締結の当時からすでに三年経過した後であるとともに、調査期日が右河川の清掃がなされた後どの程度経過した日であるかも不明であって(原告久米慶典四七項)、右資料により、河川等清掃業務委託契約時における塵芥量の判断が相当ではないと認めることはできないし、また、原告らが主張する一回目の清掃後においては、塵芥量が散在塵芥収集め程度になることを認めるに足る証拠もないから、原告らの主張はいずれも理由がない。

(二) 一般管理費について

原告らは、一般管理費の算出根拠が不明である旨主張するので案ずるに、河川等清掃業務委託契約の業務仕様書(〈書証番号略〉)によると、一般管理費を一〇三万五〇四五円としているが、右算出方法は、純経費六二九万〇六八一円及び現場管理費一一四万四二七四円の合計金額七四三万四九五五円に建設省土木工事積算基準の係数14.14パーセント(工事原価が七三六万三〇〇〇円を超え七四三万九〇〇〇円以下の係数)を適用した上(計算上は一〇五万一三〇二円となる。)、委託料端数処理のため低額に修正したことが認められる(〈書証番号略〉弁論の全趣旨)。そうすると、右算出においては、工事原価に相当する係数を適用し、その上で委託料に一万円以下の端数がでないようにするために一万六〇〇〇円余り低額に修正しているものということができ、以上を総合すると、右算出においては、建設省土木工事積算基準におよそ基づくものであり、かつ、損害も認められないから、原告らの主張は理由がない。

3  発泡スチロール溶融処理等業務委託契約について

原告らは、発泡スチロール溶融処理等業務委託契約の委託金額算出のうち、発泡スチロールの溶融処理業務の世話役につき一般運転手の単価を適用していること及び軽作業員を一日当たり一人としていることが不当である旨主張するので案ずるに、業務仕様書(〈書証番号略〉)によると、発泡スチロールの溶融処理業務の世話役の単価は、確かに発泡スチロール選別収集業務の世話役の単価より高くなっているものの、右溶融処理業務は、選別収集業務とは異なり、確認誘導とともに溶融固形物運搬処理を含むとされていること(〈書証番号略〉)、昭和六三年度山口県労務・資材単価表の一般世話役の単価は一日当たり一万四一〇〇円とされており、それより単価の低い一般運転手の単価を適用していることが認められる(〈書証番号略〉、弁論の全趣旨)から、右単価が不当であるとはいえず、また、原告らの主張のように軽作業員を一日当たり一人とすることが不当であることを認めるに足る証拠もない。

よって、原告らの主張はいずれも理由がない。

4  以上検討したとおり、原告らの主張はいずれも理由がないから、本件各契約における委託料はいずれも適正額であるというほかなく、かつ、市道・河川等の清掃及び発泡スチロール溶融処理等本件各契約の目的自体に不適切、不必要なところはないのであるから、結局、被告がコレクトサービスとの間で本件各契約を締結したことによって岩国市に損害を被らせたとは認めることはできない。

五以上の次第で、原告らの請求はいずれも理由がない。

(裁判長裁判官松山恒昭 裁判官内藤紘二 裁判官橋本眞一)

別紙一、二〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例